街に火薬のにおいが充満しているのですが・・・

花市 

 中国では(沖縄も)昨日が除夜で、今日が正月(春節)です。
 や、沖縄も旧暦の正月の方が1月1日より正月らしいですが、やっぱり中国の比ではなかったね。2月になってTVとかで「回顧2009年」とかやるの少し変な感じ。

 今まで知らなかったが、正月には花を飾る習慣があるらしい。街のあちこちで花市場が開かれている。

 正月用の飾付けを売る出店もいっぱい出ていて、最後の買出しに来ている人々でごった返していて、いかにも年末!という慌しさに満ち溢れていた。(・・・沖縄だと新暦の年末も旧暦の年末もそれほど慌しくはないんだが)


 春節運行

 春節が近づくと交通機関は、対春節モード、通称(?)「春運期間」に入る。 故郷に帰るため押し寄せる人々を捌いたり、彼らが次々起こすトラブルを解決したり、臨時便を出したりと・・・まあ、年末進行とお盆進行が一緒に来た日本の漫画家より大変な苦労をする期間、というわけである。ちなみに今年は企業が休みに入りだす1月30日からの二週間が春運期間だそうだ。
 もちろん、乗客も何があっても正月を故郷で過ごしたいので、切符を求めて必死になり、駅はなかなかカオスな空間になるそうである。

 で、私も悪趣味ながらちょっとその「民族大移動」の現場を見てみたいと思い、除夜の日の午後に長距離列車の出る駅に行ってみた。
 が・・・・・・


 あれ? なんか思ったより人が少ない・・・って言うかむしろいつもより閑散としている。これだったら数日前に来た時の方が混雑していた。
 ニュースで見たら、昨日の夜の段階でかなり混雑していたはずだが?

・・・しかしよく考えてみれば、故郷に帰るのに十何時間以上かかる人がほとんどだ。彼らは正月当日、いや、大晦日の夜は何としても故郷で迎えたいと思っているから、除夜の日の午後にまだ出発地の駅に居ては間に合わないのだ。
 どうやら遅くともこの日の朝までに帰るべき人はみな旅立ってしまったらしい。駅の職員たちも何日かぶりに一段落ついて、ほっとしているような雰囲気だった。
 それでも近場(つまり十時間以内につけるということ)行きのバス乗り場は、まだ少し込んでいたし、駅内の列車待ち合い室はすし詰め状態。
 だがその待ち合い室にいるということはとりあえず切符は買えたということだ。

 しかし、タイミングの悪いことに華北の方では寒波が来ていて、大雪のためこの大変な時に多くの高速道路が封鎖されるなど、交通機関に影響が出ている。大雪で列車も途中で止まってしまうかもしれないし、多くの人は列車を降りてもまた何時間と長距離バスに乗らなければならないはずだが、これも運行できるかどうか・・・・・・。

 ちなみにこちらのブログでは足止めされた人々(とブログ主)の様子がよくわかる。場所は山西省省都・太源からさらにバスで黄土高原の村に向かうところ。どうやら人民解放軍も出動している模様です(笑)
ttp://d.hatena.ne.jp/maotouying/comment?date=20100211
(頭にhをつけてください)


 が、とにもかくにも皆故郷に帰るための切符を手にすることができて、駅には不思議と幸せそうな空気に満ちていた。なんだかこちらまでもちょっとくすぐったいような幸せな気持ちになってくる。

街から人が消えた

 ちなみに私の住む街は改革開放以降新しく発展した経済特区で、住民のほとんどが昔からの地元人ではなく、移住者である。そしてこの除夜の日、いつも人で溢れ返っているのが嘘のように、すっかり街から人影が消えてしまっていた。
 まあ、スーパーなどは込み合っているし、新興住宅地などにはここで正月を過ごす家族の姿も多かったが・・・本当に大通りなどに人が消えている。
春節期間には都会から人がいなくなる」
という話は大げさでもなんでもなく事実だったのだな、と納得する。


いつも人と車で溢れ返っているのだが・・・


春節と言えば爆竹、爆竹と言えば春節

 中国に住んで長いある人から
「中国人は春節に鳴らす爆竹を買うために働いているのかもしれない・・・」
といった話や百連発の爆竹(二百か三百だったかも)の話を聞いたことがある。もう十年くらい前に聞いた話だが、百連発という威勢の良さも爆竹にかける中国人の熱い意気込みも私の心を強く捉え続けていた。

 まったく、中国人にとって爆竹は春節にはなくてはならないものらしい。過去、中国政府は火事が多発するという理由でたびたび春節の爆竹を禁止しているが、中国人民もこればかりは政府の弾圧(笑)を無視し、爆竹を鳴らし続けてきた。(この禁止法律は数年前に廃止された)

 
 私もやっと長年の夢が叶い、伝説の(笑)「春節の爆竹」がどんなものか現場で体験できる、と楽しみにしていた・・・・・・。

 除夜の日、暗くなりはじめた頃から、それまで閑散としていた街がにわかにさわがしくなってきた。
 花火がひっきりなしに打ち上げられ始め・・・のはいいのだが、どうも行政とかがやっているのではなく、個人が好き勝手に打ち上げているような気がする(確証はないが)。しかも道端では子供たちが火についた花火を振り回しながら走り回り、アパートの窓からはロケット花火が発射される始末である。
 すでにこの頃から道には火薬のにおいが漂いはじめていた。

 夜が更けてきても花火は止むことなく四方八方で打ち上げられ続けている。それはもう花火の綺麗さをどうこう問題にするのではなく、どれだけ大きな音を耐えることなく響かせ続けられるかということのみにこだわっているようであった。
 中国に住むある日本人は「市街戦が始まったとしてもわからない」ようなすさまじさだと言っていたが・・・確かに・・・・・・。

 そこで思い出した。
 なんでもその音で魔物を驚かせて撃退するために春節に盛大に爆竹を鳴らすのだという。
 また私は正月に家を紅く飾付けるのは、紅がめでたい色だからだと思っていたが、ある中国人から「紅色」には魔除けの力があるためだという(本当にそういう説があるのかは知らないが、その人はそう言っていた)。
 つまり・・・これは一種の戦いなのだ。「紅色」で家の防御を固め、爆竹で魔物を撃退する。そうしてその一年、自分と家族を魔物が運んでくる災厄から守るのだ。近年では爆竹の他に花火という武器が加わったのだろう。


 そんなアホなことを考えているうちに、ついに年が明けた。


 ・・・・・・そこから1時間の街の様子をどう表現すればいいだろう?
 「とても言葉では表現できない」というのがもっとも誠実な言い方であろう。
 

 以下、ちょっとしたフィクションみたいな気持ちでお読みください。(べつにみんながみんなこんなわけでは・・・)


 すでに十分すぎるほどであったのに、打ち上げ花火が乱打され、夜中の街は早朝程度には明るくなった。
 それに呼応するように、周辺のマンションのベランダからは次々ロケット花火が発射される・・・・・・ちょっと待ってくれ。


見えない何かに向かって攻撃中。

 ピンボケしていて恥ずかしいが・・・思わず写真を撮ってしまった。手前のはうちのベランダの柵だけど・・・右側に見える斜め上に向かっている光が、のがベランダから撃ちあげられた花火。
 写真には撮り損ねたが、いくつもの火花が連続して炸裂しているベランダもある。あれが連発式爆竹なのだろう。
 ベランダで炸裂させるなよ、と言いたいところだが(←言ってもいい)、魔除けの意味があるなら家の近くでやらなければならない、ということか?

 ・・・これぞまさしくテト*1攻勢か・・・とさらにアホなことを考えていたら


上から火花が降ってきた!

 どうやら真上の階の人も花火を打ち上げたらしい・・・だからちょっと待ってくれ。

 しかし、これはまだ(見た目ほどは)危険ではなかった。
 上の階の花火攻勢が終わったらしいので、再びベランダに出て外の様子を見物する。
 と、今度はごく至近で爆発音が響いた。それも連続して何発もであり、その火花がさっきとは別の方向から降ってきた。音と光の衝撃がひどくてうまく把握できなかったが、たぶんななめ横の部屋の人がベランダで爆竹を炸裂させたようだ。
 真上からの火花より、ななめ横で爆竹を炸裂された方が危ない。あわてて部屋の中に逃げる。・・・だが、どうも別の部屋のベランダでやっているだけにしては、あまりにも音と火花と煙がひどい。・・・どうやら爆竹の一部が吹っ飛び、私のベランダで炸裂しているようだ・・・・・・。

 ・・・いや、私、魔物でも災厄でもないんだけど・・・・・・。あっ、でもこれで爆竹を用意していなかった我が家でも厄除けができたか?(と前向きに考えてみる)。


 そんなこんなで激しい戦闘は1時間ほど続いた。
 ・・・年が明けてから30分ほどした時、どこかで消防車のサイレンが聞こえたような気がしたが・・・まあ、ともかく終わった。
 で、我ながら末期症状だと思うが・・・


 楽しかった!

 うん、怖い目にもあったし、だいぶ驚いたけど、これはこれで楽しかったなぁ・・・。 
 感慨に耽っていたら、同居の親族から
「この街はそれほどでもないよ。上海なんか4時間くらいもっとハデにやっているからな」

 ・・・すいません、まだ初心者なんで、このくらいがちょうどいいです・・・・・・。
 でもいつかは挑戦したいもっとハードな春節爆竹体験。
 
 新年を迎えて街には火薬のにおいが充満しています。


 ↓闘いの記録

地上から打ち上げられたものと、水平方向のもの、そして上から降ってきたもの(さっきとはまた別)

*1:テトはベトナム語春節の意味