「県内移設反対」と「(県内移設反対無き)県外移設」


 あまりに仕事が忙しくて、ここ1週間ほど日に2,3時間ほどの仮眠ぐらいしか取れないほど時間がない。
 しかし、沖縄知事選挙に向けて、どうしても書いておきたいことがあるので、簡潔にでも書いておく。


 今度の選挙の最大の争点が「普天間基地」問題であるのは明白である。しかし、二大候補である現職の仲井眞氏と(普天間基地の所在地である)前宜野湾市長・伊波氏がどちらも一見「辺野古『移設』反対」を掲げているように見えるので、両候補の違いがわからずいまいち争点がぼやけてしまっている感がある。


 しかし、両候補の「普天間基地問題」に対するスタンスには明確な違いがある。


 「県内『移設』反対」を明確に打ち出す伊波氏のスタンスは一貫してはっきりしている。
 「なぐなぐ雑記」さんのところで両候補の対談の内容が紹介されているが、それによると伊波氏は

私になれば、知事として県内移設に反対しますし、辺野古移設に反対し埋め立てはさせません。そもそも、沖縄の海兵隊はグアムに行く流れとして着実に計画が進んでいて、建設も進み、その詳細も明らかになっている。アメリカの戦略は実際には沖縄に兵を置き続けるような計画にはなっていない。
http://miyagi.no-blog.jp/nago/2010/11/post_795c.html

辺野古については「県民はもう新しい基地をつくることは反対です」「グアムに海兵隊を移すのは反対しません」ということを私は言っているわけです。

と「辺野古『移設』」=「県内『移設』」を明確に否定している。


 伊波氏は2003年に「辺野古(県内)『移設』反対」を前提として「普天間基地の返還」をはっきりと公約に掲げて宜野湾市長戦に出馬し、当選確実と言われていた稲嶺知事*1(当時。県内移設容認派)の推す候補を破って当選した。
 その後は、普天間基地の「国外『移設』」、特にグアムへの移転*2を基本として、訪米要請行動をするなど行動を起こしてきた、つまり、彼の「県内移設反対」は昨今の時勢におもねって出したものでなく、この7年間、政府の「辺野古『移設』」方針が容赦なかった頃からの一環した姿勢なのである。

 ところで、辺野古現地で建設阻止行動をしている人の話を聞くと、(統計はないが)県内から行動に参加する中でも最も多いのが普天間基地宜野湾市民だという。彼らはもちろん普天間基地がずっと宜野湾にあればいいとは思っていない。しかし、また一方でそれが辺野古の犠牲の元に解決されてはいけないこともはっきりと理解しているのだろう。
 宜野湾市長時代に伊波氏の「普天間基地撤去」と「辺野古(県内)『移設』反対」を両立させた方針は、これら「普天間基地存続か辺野古に『移設』か」という暴力的な二者択一に騙されず、それを拒否する多くの宜野湾市民の意思があってのことだというのも忘れてはいけない。


 一方の仲井眞氏の上記での対談の発言。

反対と言おうが、基地そのものはそこに、普天間だって宜野湾にずっとあるわけでしょう。反対といえば消えるわけでもなんでもないわけでして。(同)

私はノーと言わないから受けるに違いないという論理はおかしい。私は「県外だ」「県外をしっかりやる」と言ってるんですから。仮定の議論は、そういう簡単には実現ならんですよ。それより、いち早い普天間の危険性除去のためには、日本政府で受け止めてやってもらった方が早いですよ。 (同)

 と全体的に何が言いたいのかよくわからない。そして「なぐなご雑記」さんでも指摘されているが『普天間の危険性除去のためには、日本政府で受け止めてやってもらった方が早いですよ』と言っているが、政府の方針とはまさに「辺野古『移設』」なのである。こちら側の意思を明確にせず、政府に問題を投げてしまうことは、「辺野古『移設』」を容認したも同然であると自覚しているのだろうか?

 仲井眞氏の発言でもう一つ注目すべきなのは、「県内『移設』反対」を明確にしないまま「県外『移設』」を目指している点である。伊波氏も市長時代に「国外『移設』」を方針としていたが、それはまず「県内『移設』反対」という大前提があってのことだった。


 「県内『移設』」を容認した稲嶺県政の後を継いだ仲井眞氏は、一貫して「県内『移設』」を容認してきた。昨年、4月の県内移設反対県民大会でも仲井眞氏は最後まで参加を渋り、県民の声を無視しているわけではない、というほとんどアリバイのようにやっと参加した。

 その仲井眞氏が選挙で「県外『移設』」を掲げたことは、それだけ県民の「県内『移設』反対」の声が無視できないもの=「県内容認」では絶対に選挙に勝てないことを見越してものであろう。
 仲井眞氏が保守であることが明らかなように、伊波氏は明らかに革新である。そして沖縄の保守層は、革新が大嫌いである。しかし、「県内『移設』」に反対する意思は沖縄では保革を超えて見られる現象であり、候補の一方が「県内反対」を掲げもう一方が掲げないなら、それを掲げている候補が革新であっても、その革新嫌いを超えてでも保守層も投票を考慮するのである。だからこそ、仲井眞知氏は伊波氏に流れかけた保守層を取り戻すべく「県外『移設』」を掲げるようになったと思われる。


 しかし、「県内『移設』反対」にしろ「県外『移設』」にしろ、「辺野古『移設』」に反対することに変わりなく、「県外『移設』」を掲げて当選してしまったら仲井眞氏はちゃんと「県外『移設』」に努力するだろう、と思うむきもあるかもしれない。(まさしくそこが仲井眞氏の狙いなのかもしれないが)

 
 フェアに言えば、稲嶺知事時代から少なくとも表向きは「県内『移設』」にまったく抵抗しなかった「県内『移設』容認派」の首長は、県知事にしろ名護市長にしろいないのだ。彼らもまたある程度、国の県内方針に反対する。でなければ、県民世論が黙っていない。
 と、同時に彼らには伝家の宝刀もある。*3それは

「私だって県外がベストだと思いますよ。でも現実の前には、ベターな選択、苦渋の選択をしなければいけないのです」

 ・・・・・・「県外がベスト、でも苦渋の選択=県内『移設』容認」。ほとんど県内容認派のテンプレ発言である。と言うか、彼らには「苦渋の選択」以外の能がないらしい。
 なので私は仲井眞氏の「県外『移設』」を聞くと、どうしても上の言葉を連想してしまう。おそらく、いざ当選した暁にはしばらく国に抵抗して見せた後、上記のような発言をするだろう。「県内『移設』反対」を言わず「県外『移設』」だけを言う仲井眞氏が狙う落としどころなのではないだろうか。
 いったん「県内『移設』反対」を掲げた上で「県外『移設』」を主張してしまえば、それだけ当選後の逃げ場が少なくなる。伊波氏も宜野湾市長時代、「国外移転」を掲げていたがそれは「県内『移設』反対」という大前提を明確にした上でことであった。そこが違いであろう。


 伊波氏の「県内『移設』反対」と仲井眞氏の「県外『移設』」は、一見目指しているものは同じに見えるが、明確に違うのである。
 「県内『移設』反対」と「県内『移設』反対」無き「県外『移設』」。この違いをよく理解して投票を考えよう。



 ・・・・・・って簡潔にと思っていたらやっぱり長文に!仕事が一歩も進んでないよ! 

*1:伊波氏の当確が報じられた瞬間、TVに映った稲嶺知事の呆然とした顔は底意地の悪い私にとって今でも忘れられない

*2:グアムのことを考えれば、この案にも問題はあるが

*3:頻繁に抜かれるので「伝家の宝刀」じゃない気もするけど