中国の図書館・書店で見る日中戦争研究の現状(1)


コミケのオマケ用無料配布本の用意も終わったーー。
いずれここで告知するかもしれません。

以下、書けるところまで書いてみた。

 以前も書いたけど、5月半ばに中国旅行に行ってた。
 で、中国行くたびに恒例となっているのが書店通い。特に趣味で調べている中国人現代史の人物の伝記や日中戦争(と言うより私が重点的に調べているのは八路軍なのですが)*1関連書籍を買い漁るかチェック*2しまくり。
……まあ、買ってきても積読になるのが多いのですが……、でも行った時に手元に置いときたいのは買っておかないと(日本でネット中国書籍店に頼むと中身確認できないし、高くつくし)。

で、せっかくなので自分メモもかねて、書店や図書館で見かけたおもしろい日中戦争本を紹介。中国における研究状況の一端をまとめてみたい。

 
 日本の一部では、中国側の日中戦争研究なんてまったく信用できないという声がある。悲しいことに、日本軍の中国における戦争犯罪を積極的に研究し、歴史修正主義者と闘う人の中にも「自分が南京虐殺などの戦争犯罪があったと主張するのは、中国側の資料・研究・主張ではなく、日本軍の記録に基づいてのこと」*3という言い方で、暗に中国側の資料はまったく信憑性もなく研究成果も考慮に値しないとしか思えない人もいる。


もちろん、中国の日中戦争研究はたぶんに政治的なものが絡んでいる。しかし一方で、その研究内容は微に入り細に入っていて、実に興味深い主題も多い。これを参考にしない手はやはりないのではないかと思う。
一概に信用できないとするのではなくて、政治的な思惑が絡んでいるとしたらどういった思惑がどの程度絡んでいるか、語られていないことは何か、逆に語られていないことは何を語っているか、などを考えながら個々の資料を検討し、信用すべき箇所は信用し、使える箇所は大いに使えばいいのではないかと思う。


前置きが長くなった。
まず『抗日戦争研究』という季刊誌について。
この雑誌は2000年から「中国抗日戦争史学会」が発行している学術誌。


調べたら滞在した町の図書館にも置いてあるようなので行ってみたのだが……
開架室に置いてあるのは最新号だけで、バックナンバーは図書館の職員に頼んで書庫に連れていってもらわなくては見れないようだった。
私の中国語会話能力はほとんどないから、職員に頼んだらたぶん日本人だとばれるだろう。この手の本を頼むに自分が日本人だとばれてしまうことは、正直ちょっと抵抗があった。
筆談と片言中国語で職員に頼むも案の定話の途中で「あなたどこの人?」と聞かれてしまった。やや緊張しながら「日本人です」と答える。
しかし職員は「あーはいはい」と納得したような顔をしただけで、以後も親切に対応してくれた。どうも身構えすぎてしまったようだ。


その肝心の雑誌だが、中身は各号とも大きく三つの主題に分かれてそれぞれ関連する論文を載せている。
一つ目の主題は、蒋介石の国民党政府が主導する所謂「正面戦場」についての研究。主に軍事技術的なことを論じるのが多かったような気がしたが……ぶっちゃけ「正面戦場」にはあんまり興味なく時間もなかったのでチェックしなかった。
二つ目は、主に共産党と抗日戦争について。共産党八路軍が拠点とした抗日根拠地についての研究。
三つ目は上記二つに当てはまらない分野。人物研究や特定分野の現在までの研究のまとめ、基礎文献の紹介などが多かった気がする。


書庫の図書を利用する時間が限られていたので、個々の論文を精読する時間がなく、しかも4号分しか読めなかったが、おもしろそうな論文はチェックしてきたので以下にどんなのがあったか紹介。

・河南とその周辺の根拠地の制度変革が紡績業に与えた影響について。
・抗日戦争時期の江蘇・安徽における窮乏状態の克服について。
・戦時中の農村調査について。その概略や意義、限界を述べていた。
・80年代以降の陝西・甘粛辺区に関する研究のまとめ
・科学技術が抗日根拠地の経済建設に与えた影響について。根拠地で活躍した科学者たちの話や彼等が成し遂げた農業技術の発展など、具体的な数値をあげて論じていた。
・戦争時期の農村女性のセクシャリティ。農村における婚外交渉の実態や農村女性の意識について調べていた。
・抗日歌曲と民族意識の高揚について。


 どうも戦争そのものというより、その時代の情況についての研究*4が多いような気がするが、主に私の興味に引っかかった論文ばかりメモしてきたので偏ってしまったのかも。
 なんにしろおもしろい論文ばかりで、定期購読してみようかとも思っている。

                                      

*1:中国での呼び名は抗日戦争,中日戦争など

*2:日本の図書館で借りれる場合がある

*3:このような言い方は、歴史修正主義者からの「おまえは中国の主張を鵜呑みにして日本軍の戦争犯罪を語っている。中国側の主張はプロパガンダだ」という攻撃に対抗してのものではあるが

*4:もちろん抗日戦争と絡めて論じてはいたが