思いやりが足りない・・・


 先週はちょっと沖縄に帰っていました。今はまた中国です。
 ・・・中国の暴走バスになれてしまうと沖縄のバスが安全運転すぎてありえないほど遅く感じてしまいます。


 さて、私が帰った時、ちょうど「事業仕分け」で「思いやり予算*1が取り上げられていてちょっとびっくりしたのですが。これは「聖域」でスルーされるかな、と思っていたので。
 ……で、私は民主党を全然支持していないんですけど、でもネットウヨとかサンケイとかがあんなに激しく発狂しているとしか思えない攻撃をしているのを見ると*2、とりあえず民主党を批判する気がなくなってしまう(あえて批判したいこともなかったし、他に適切な批判をしているブロガーはたくさんいることだし)。
 が、・・・・・・この件に関しては一言。

政府の行政刷新会議は26日、2010年度予算概算要求の無駄を洗い出す事業仕分け8日目の作業で、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の半分以上を占める基地労働者給与(要求額1233億円)について「同一地域の同職種とのバランスを考慮すべきだ」として、地域ごとに給与水準を見直すよう求めた。基地労働者の給与は、ほぼ全国同一のため、米軍基地が集中する沖縄県などで、周辺の民間給与水準に比べ高額との指摘がある。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-153390-storytopic-3.html


 ・・・・・・在沖米軍基地の日本人従業員の給与は沖縄の同じような触手・・・じゃなかった職種に比べて高いから削減しろだと?
 基地外沖縄県民の給与水準を基地労働者と同じにすればいいじゃん! 


 ……まあ、なんだ。確かに「最貧県」沖縄の県民にとって、突出して給与が高い基地での仕事は魅力的な職場*3だよ。そりゃいい大人が時給700円以下で働かされたり、有給もボーナスももらったことがないなんて当たり前だったり,平均年収が国会議員のボーナスより低い198万だったりしたらね。倍率が何十倍にもなるよ、米軍基地に就職するための専門学校*4だってできちゃうよ。だから、給与が基地外の職場と同じ水準になるなら、基地なんてなんも魅力がなくなって従業員いなくなって、結果的に機能が麻痺してしまう、米軍が沖縄でやっていけなくなる・・・って話になるのかもしれないが。

 でもやっぱり米兵が浪費する光熱費とか基地内の娯楽施設の運営費とかに手をつけず、まず日本人従業員の給与を減らすってスジが違うんでない? 一般の企業でも人件費や人員の削減とかは、他の努力をすべてやった後でそれでもどうしようもない時にやる最後の手段だぞ。(現実は往々にしてそうなっていないが)


 全駐労*5の執行委員長は、以下のように言っている。
 

 仕分け作業の議論を傍聴した全駐労の山川一夫中央執行委員長は「沖縄の民間企業の給与水準が低いのは、戦後沖縄に基地を押しつけ、主な産業が育たなかったため。国の安保政策の結果だ」と指摘し「民間に水準を合わせろというのは過重な基地負担に苦しむ沖縄の人に二重の負担を強いるもの。沖縄の労働者は絶対に許さない」と述べた。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-153406-storytopic-3.html

 基地と経済については、米軍基地があるから沖縄の経済が支えられている とか言いやがる奴という見方と基地の存在のせいで沖縄の経済は成長できないという見方がある。私は経済は(も)よくわからないが、実は基地関連が沖縄の経済に占める割合はかなり低いというデータからすれば、前者の主張は妥当性を欠くと思う。後者の妥当性は、基地が無い状態が戦後無かったので未知数ではあるが、基地が返還された跡地では再開発が進みそれなりに成功している、という現実がある。
 やはりこの執行委員長の見解は、なかなか的を射ていると思う。


 私は米軍基地は全面的に撤去するべきだと思っている。誰がどんなにその「必要性」を説こうとその考えは譲ることはない。
 しかし、ならば現在の基地労働者がどうなってもいいと思っているわけではない。と言うか、沖縄で「在沖米軍基地の閉鎖」を積極的に訴える人々のほとんどが同じように思っているだろう。むしろ彼らこそが、この問題に真摯に向かい合おうとしているのではないかと思う。
 逆に私はずっと疑問だったのだが、「私も米軍基地はなくなったほうがいいと思っているけど、でも基地で働いている人がかわいそうだから反対できない」という人がよくいる。と言うか、みなテンプレのようにほぼまったく同じことを言う。しかし、そういうふうに基地労働者を思いやってあげる「優しい人」たちは、もし日本政府が何かの事情で、基地はそのままに労働者だけ大量解雇するという事態が起きた場合*6、憤慨し解雇を撤回させるため支援活動とかをするのだろうか? 基地が撤去されて彼らの仕事が無くなるのも、他の事情で解雇され仕事がなくなるのも同じように「かわいそう」なことのはずだが? 彼らは今回の「事業仕分け」についてどう思っているのだろうか。


 ともかく基地を閉鎖する場合、労働者の生活や転職保障は、沖縄に基地を押し付けて続けてきた日本政府とそんな政府を選び続けてきた日本国民全体で当然のこととして責任を持って対処するべきだ。
 しかし今回の「事業仕分け」では、真っ先に個々の労働者に負担をかけようとしている。聞いた話によると、全駐労はいろいろ紆余曲折あったが、普天間基地の閉鎖と県内移設の反対ということで方針がまとまりかけている、という*7。また基地労働者の中には、自分の仕事がなくなるかもしれないという不安を持ちながら、基地撤去を願い機会があればそのような集会に参加している者も少なくない。しかしこの政府の態度は、基地労働者の不安を強め、彼らの基地撤去の意思をくじかせようとするかのようだ。


 基地労働者の給与水準が他の沖縄県民と比べて高いというなら、沖縄県民の給与水準を上げればいい。
 どうしても基地労働者に負担を強いるなら、いっそのこと増やした負担の分、米軍基地を返還させよう。そして負担を増やされた彼らに返還地を譲渡するといい。もともと彼らの土地だ。人の土地を使っているくせに*8、給与を下げるあるいは払えないというなら、これ以上土地を使わせてやる道理はますます無い。返させて自分達で運用したほうが納得も行くというものだ。
 そして普段「基地労働者の仕事がなくなったらかわいそう」とか言っている人々は、今こそその心情に従い抗議の声をあげればいい。

 どうもまとまりがなくなってしまったけど、最後に一言。
 沖縄の基地問題を考える上で、基地撤去を願い行動するのと、基地労働者の生活を心配することは矛盾しない。いや、矛盾するかもしれないが、その矛盾をあえて抱え込むのが沖縄の基地問題を考えるということなのかもしれない。そもそも基地を撤去するか基地労働者の生活を守るかどちらか一つしか選べないかのような思考こそおかしい。

*1:ちなみに米軍側ではこれを「フレンドシップ予算」と呼んでいると聞いたことがある。誇り高い米軍が日本に「思いやられ」てよく耐えられるね、と思っていたら「フレンドシップ」ということにしていたのか。でも「思いやり」と「フレンドシップ」ではだいぶ意味が違うと思うが?

*2:彼らを見ていると、人はどこまで頭がおかしくなれるか興味深く観察したいという気持ちもあるけど、日本人に対して絶望的な気分になってくるな。まあ、サンケイは発狂と言うにはちょっと冷静で、見苦しいとか醜悪とか言うほうが適切だけど

*3:実際には基地労働の給与はピンからキリまであり、低賃金に苦しむ人も少なくない。また雇い主は日本政府だが、現場の上司である米軍人からのパワハラも横行しているという。そのような実情を無視してあるワイドショーが特別に給与が高い人々の給料ばかりをとりあげていたのには頭にきた

*4:今もまだあるのかわからないが

*5:日本全国の米軍基地の日本人労働者で作る労働組合

*6:実際、米軍統治時代で基地労働者の雇い主が米軍であった時にそういうことがあった

*7:まあ、私も組合の外部の人間なので確定的なことは言えないけど

*8:実際には米軍統治時代は武力で、日本復帰後は法律によって、沖縄県民の抵抗を封じて奪いとっているわけだが