コザ暴動翌日、1970年12月21日沖縄タイムス掲載「記者座談会」(1)

事件の状況
 
―まず最初にこんどの事件の状況からきこう。一番初めに事件現場についたA君から。

A:タクシーで島袋あたりを通っていると瑞慶覧方面からMPカーが二、三台疾走してきて事件では・・・と思ってその後を追うと、現場の”ホテル京都”前24号線で二、三百人の群集がMPカー,パトカーを囲んで騒いでいた。
C:群集は口々に「外人事故をうやむやにするな」と叫びながらMP、警官と押し問答をしていた。
B:そうするうちにMPカーが続々、現場に到着、群衆も千人以上にふくれ上がった。まさに一触即発の状態。そこへ島袋方面からきた三人乗りの外人乗用車が追突事故を起こした*1。事故の内容は軽微なものだったが、相次ぐ事故に刺激された群集は、やにわに事故を起こした外人車両を取り囲み、投石を始めた。
E:近くにいたMPがこの三人を救出しようとして小ぜり合い。群集の投石、乱暴で道端に追いつめられた十数人のMPは、たまりかねて短銃をとり出し、空に向けて一斉に威かく発砲した。
G:これが火に油を注ぐ結果になった。一段と投石が激しくなり、バ声や指笛が飛んだ。その間に仲地修理工場にとめてあったMPカーが燃え出した。
E:その瞬間、群集は一時、たじろいだかに見えたが、ふたたび騒然、胡屋十字路にとめてあったMPカー,黄ナンバー*2の外人車に次々と火を放った。
D:事故現場の京都ホテル付近を起点に、胡屋十字路と島袋方面へまたたくまに騒ぎは広がっていった。
A:二時半ごろ、胡屋十字路の方から中の町の方面を見たら24号線で真っ赤な炎が見えた。目の前で”ワッショイ、ワッショイ”とかけ声を出して車をひっくり返している”異常な光景”にしばらくぼうぜんとなってしまった。
B:群集は一見ばらばらのようだったが、だれかが声をあげるとさっと多勢がかけ寄ってくるという具合だったな。だからどこかで「次はあの車だ」というとアッという間に丸太ん棒でガラスが割られ、燃えている車めがけてつっこませていた。
C:午前三時ごろだったな。胡屋十字路の方で、パトカーを引っくり返した一人の男が、燃え上がる炎を前にカチャーシー*3を踊っているのがいたよ。横にはコザ署員が立っているが、車を燃やしてこれ見よがしに乱舞するのを見てもまったく手出しもできずに立ちつくしているだけだったな。
G:焼き打ちの初めのころ第一現場近くにある給油所でガソリンが売られていたことが目撃されている。数人のグループがコーラビンを持ち込み、箱に数十本を持ち去っている。間もなくガソリンを使用した放火が起こった。ビックリした給油所はあわてて店をしめ、ポンプの元せんを締め、万一に備えた。このビン詰めのガソリンは各所で使用された。ガソリンがつきた後は炎上した車に他の車を衝突させて延焼させていた。
A:このような光景は一環して流れていた。直接行動しているものと、ヤジ馬との感情のズレが見られず事態は進行した。
B:二時ごろ現場の混乱、状況を知るため、中の町派出所に出かけた。しかし、騒ぎがエスカレートしたため手のつけようがなく派出所の巡査も本署へ避難したかっこうだった。派出所へ騒ぎを訴えに来た住民もほとんど興奮、”派出所の巡査はどこに逃げたんだ”とバ声を浴びせる姿も見られた。
C:午前三時、群集は園田付近にMPをおい込み、”ヤンキーゴホーム”の気勢をあげ、中の町バー街の暗い路地からはコーラビンや石を投げ激しく抵抗した。
E:群集はどの顔も殺気立ち、24号線の沿道に駐車中の外車を道路中央へ横転、放火した。とくに諸見大通りでは同日午前四時から五時にかけて群集が激しく荒れ狂った。ちょうど、午前五時ごろ、外人の出勤時とかち合い群集は中の町からライカム部隊方面へ向かって走ってきた外人車を阻止。車内から外人を引きずり降ろして、袋だたきにした。外人らは必死に群集から逃げ出そうとしたが現場にかけつけたコザ署員らに助け出された。
B:たしか、五、六人の白人兵が全身に打撲傷を負っていたと思う。わたしの奥さん日本人”ヘルプミー”と泣き叫びながらにげまどう白人兵もあった。実際、諸見マーケット前では群集のひとりがブロックで白人兵を殺そうとする姿も見られ、”それだけはよせ”と他人からとめられ、やっと難をのがれた白人兵もいた。
D:群集はなぜか、黒人兵には同情的だった。なかにはバー街から遊んでの帰り、酔っ払って群集の中にまよいこんだ黒人兵の姿もあったが、群集は”こいつはクルーグヮー*4だ、かわいそうだから許してやれ”という同情的な声も聞かれた。なにかしら、沖縄人は黒人兵には弱い。
F:当初のMP隊の群集攻撃は全く無差別で投石があれば、棍棒を振るっていたが、男女の別もなくひどいものだった。つかまえたのは二人がかりでひきずるようにMPカーにほりこんでいた。少なくとも若い男三人がつかまるのを目撃した。
D:まったく戦場さながらという感じだったな。真っ黒い煙をあげながらあちこちで車が燃えている。タイヤが焼けて鼻をつくような臭気がたち込める中で「アメリカー*5を許すな」「解放闘争だ」などの怒号が飛びかっていた。ときどきガソリンが焼けて”パン”という音が聞こえるかと思えば、むこうで”ドスン”と車のぶつかる音が聞こえる。闇の中で立っているのが恐ろしくなるほどだった。
A:第二ゲート*6前に群集が押し寄せたのが午前四時だった。このときから群集は島袋向けとゲート向けの二手に分かれて両方で火の手があがった。群集の襲来に対して、第二ゲート前の米軍の雇用事務所前に米兵約百人が警備にあたっていた。激しいヤジと群集の数はますます増え、約二、三千人に達していたのではないかと思われる。雇用事務所には火が放たれ、さすがにカービン銃を持ち出し武装した兵隊も炎上した車両で突っ込まれたので後退せざるを得なかった。このため群集の勢いはとどまるところを知らずどんどん押しまくり、逆に警備の米兵を金網の中に押しやってしまっている。
F:ゲート通りのMPカーや外人車が焼き尽くされたゲート内での放火も一段落ち着くと、群集の中から「BC(センター街)の車を焼こう」と声があがった。およそ百人がセンター街に向かった。一団がセンター街入り口にさしかかると行く手に一人の男が立ちはだかった「私は通り会長だ。この通りには十二時を過ぎると外人はいない」と群集と押し問答となった。車はほとんど見られなかったため、群集は「この人の言うことを信用しようと」とゲート通りに引っ返した。強硬派数人が残ってその通り会長と議論したが、「同じ県民同士として、あなたがたの気持ちはわかる。アメリカをやっつけたい気持ちは同じだ。ただ私たちの生活がかかっている点を考えてもらいたい」とからだを張った説得だった。
F:美里で行われた毒ガス撤去県民大会*7が第三ゲート*8で終了して、コザ署は宿直員を残してほとんど引き上げたあとだったので警備体制に入ったのは、午前三時前後だったと思う。ただちに機動隊の出動を要請したが、到着はおくれ、警備配置は第二ゲートがコザ署八十人、島袋三差路に警本機動隊百人で警備したが、外人車両をもやしつくした群集は、警察隊をとりかこみ「金城さん事件*9をキミはどう思うか。それでも沖縄の警察か」などとはげしい口調でせまり、とても説得に応ずるふん囲気ではなかった。コザ消防本部もコザ署×*10は出動したがついに動けなかった。
F:群集の一部は歩道のブロックをはぎとり、石つぶ手にして投石する。また商店の軒下に積んであったビンをMP隊に投げこむ。MP隊は、わめきながらも後退し、歩道わきの積まれたビンを警防でたたき割り、武器が群集の手に渡るのを未然に防いでいた。しかし、群集はなおも歩道のブロックを割り、攻勢一方だった。
E:島袋三差路まで退却したMP隊は、体制をたてなおし、群集と対峙する格好となった。すでに前面の約三十人は防毒マスクをつけ、ここが阻止線となり、反撃のかまえをみせた。しかし、MP隊は反撃どころか、群集の激しい投石で、防戦するのにせいいっぱいだった。
B:群集の後方から、やってきたタクシーの中から、MP隊の約三十メートル前方に外人が一人降りた。すぐさま、MP隊の中にわめきながら、走りよったが、MP隊の興奮した数人が、その外人をなぐりかかろうとしたが、やっと米兵だとわかり、そのまま棍棒をおろす場面もあった。
G:MP隊の中から二、三人がそばの建築現場から角材をとりだし、道路に横たえる。また商店のトタン板の雨戸を防御用の楯にしはじめた。それでも群集は、ビン、石などを激しく投げつける。黒人のMPが道路から横の商店の軒下に隠れる。それを怒った隊長が現場に戻るよう命令し、やっと隊列に戻っていった。
B:MP隊はたまりかね、全員に防毒マスクを配布しはじめた。そして隊長が、マスクのひもを、ひきしめるようどなった。その時、横のMP数人が、プラスチックの催涙ガスを渡されるや、群衆めがけて投げはじめた。パンと鋭い音がすると、煙が立ちこめ、群集は涙を流し、のどの痛みに耐えかね、やっと後方に退く。商店街の住民も目を泣きはらし、退散しはじめた。
C:群集の前にいた機動隊の中から、二人がMP隊の方へ出てきて、「やめろ、やめろ」とどなる。しかし、二人はガスの痛みがひどく路地裏に難を逃れていた。
E:ホテルの中にいた外人アベックも興奮してパジャマ姿のまま玄関まで出てきて外の様子をうかがい、状況を知ると、「オーノーバァイオレンス、バァイオレンス」と叫び、そのまま部屋に閉じこもっていった。
D:とにかく群集の興奮はすさまじかったな。報道人がカメラで現場を撮ろうとするとなぐりかかってくるしまつだった。午前三時ごろ、中の町パレスホテル横の建て物にあがって撮ろうとしたとたん石やバケツなどを投げられたときは肝を冷やしたよ。

*1:この晩、相次いで米軍車両による三件の交通事故が起きた

*2:米軍人用車であるYナンバー車のこと

*3:沖縄の伝統的民衆的な踊り。乱舞

*4:沖縄方言で黒人のこと

*5:アメリカ人のこと。何故か沖縄ではこう呼ばれる。また国籍に関わらず外国人のことをすべて指す場合もある

*6:嘉手納基地の入り口のこと

*7:この頃、沖縄の米軍基地に毒ガスが貯蔵されていることが明らかになり、撤去運動が全県的に盛り上がっていた

*8:嘉手納基地のゲートの一つ

*9:加害米兵が無罪になった糸満主婦轢殺事件の被害者?

*10:判読不能